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静岡地方裁判所 平成元年(ワ)605号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金五三〇万三〇九八円及びこれに対する平成元年一二月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年四月二八日午後四時ころ

(二) 場所 静岡市国吉田七〇六の一地先市道

(三) 態様 被告運転の普通貨物自動車(静岡四五そ五一〇〇、以下「被告車」という。)が、前記場所にある交差点内に進入した際、左方より進行してきた訴外大澤裕之運転、原告同乗の普通貨物自動車(浜松四四な八二一二)に衝突した。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車を所有し、その使用に供していたもので、被告車の運行供用者であり、しかも本件事故時前記場所には、一時停止の標識があったにもかかわらず、一時停止を怠り交差点内に進入した過失によって本件事故を惹起させ、原告に対し顔面変形等の傷害を負わせたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故によって原告が受けた損害を賠償する責任がある。

3  受傷及び後遺障害

原告は、本件事故のために額面を負傷し、治療を受けたにもかかわらず、昭和六二年九月三〇日症状固定と診断され、顔面変形・右眼瞼閉鎖不全・右頬部しびれの後遺症が残ったもので、右後遺症は、自動車損害賠債保障法施行令二条別表の第七級一二号(女子の外貌に著しい醜状を残すもの)に該当する。

4  損害

右受傷に伴う原告の損害額は次のとおりである。

(一) 治療費 金三四五万六二五〇円

但し、うち金一〇〇万円は原告の将来の整形治療費である。

(二) 休業損害 金四二六万五六七〇円

(1) 一日平均収入金三九三三円として昭和六〇年四月二八日から同六一年三月三一日までの三三八日分の合計金一三二万九三五四円

(2) 一日平均収入金四二六七円として昭和六一年四月一日から同六二年九月三〇日までの五四八日分の合計金二三三万八三一六円

(3) 昭和六〇年冬季賞与減額分として金一五万円

(4) 昭和六一年夏季賞与減額分として金一二万八〇〇〇円

(5) 昭和六一年冬季賞与減額分として金一九万二〇〇〇円

(6) 昭和六二年夏季賞与減額分として金一二万八〇〇〇円

(三) 雑損 金六万九五〇〇円

(1) 自動車学校キャンセル代として金五万円

(2) メガネ破損代として金一万九五〇〇円

(四) 入院雑費 金七万七〇〇〇円

但し、一日金一〇〇〇円として七七日分

(五) 入通院慰藉料 金二〇〇万円

但し、入院七七日、通院期間八八六日(実通院日数三三日)

(六) 後遺障害慰藉料 金八〇〇万円

但し、第七級の後遺障害

(七) 逸失利益 金二一七三万四一〇九円

但し、原告は、症状固定時満二三歳、就労可能年数四四年、二三歳女子労働者の平均年収金二一九万七三〇〇円(昭和六二年度賃金センサスによる。)第七級後遺障害の労働能力喪失率五六パーセントを基礎として中間利息をライプニッツ方式で控除

(八) 弁護士費用 金一〇〇万円

5  損害の填補

原告は、既に金九一六万五三二二円の支払を受けているので、これを本訴において請求する損害の一部に充当する。

6  結論

よって、原告は、被告に対し、本訴において請求する損害の合計額から前項の填補額を控除した残金三一四三万七二〇七円のうち金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一二月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  請求原因3の事実のうち、原告が本件事故のために顔面を負傷し、治療を受けたにもかかわらず、昭和六二年九月三〇日症状固定と診断され、原告の顔面に右前額部から右眼わきないし右頬部にかけて五・〇センチメートル×〇・五センチメートル及び三・〇センチメートル×〇・五センチメートルの線状瘢痕合計四本が波型に、さらに右眉毛の上下に二・〇センチメートル×〇・五センチメートルの線状痕が残存するという変形醜状及び右眼瞼閉鎖不全・右頬部しびれ・右眼睫毛一部欠損等の残存障害があることは認め、その余は否認する。

3  請求原因4の(一)、(二)、(三)の各事実は認める。

4  請求原因4の(四)、(五)の各事実のうち原告が本件事故による受傷のため入院日数七七日、通院期間八八六日(実通院日数三三日)にわたって治療を受けたことは認め、その余は否認する。

5  請求原因4の(六)ないし(八)の事実は否認する。

6  請求原因5の事実は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1及び2の各事実(事故の発生、責任原因)について

請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因3の事実(受傷及び後遺障害)について

請求原因3の事実のうち、原告が本件事故のために顔面を負傷し、治療を受けたにもかかわらず、昭和六二年九月三〇日症状固定と診断され、原告の顔面に右前額部から右眼わきないし右頬部にかけて五・〇センチメートル×○・五センチメートル及び三・〇センチメートル×〇・五センチメートルの線状瘢痕合計四本が波型に、さらに右眉毛の上下に二・〇センチメートル×〇・五センチメートルの線状痕が残存するという変形醜状及び右眼瞼閉鎖不全・右頬部しびれ・右眼睫毛一部欠損等の残存障害があるとの事実については当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一ないし第八号証によれば、自動車損害賠償責任保険上、原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令二条別表の第一二級一四号該当の認定を受けていることが認められる。

三  請求原因4の(一)ないし(三)の各事実(治療費、休業損害、雑損)について

請求原因4の(一)ないし(三)の各事実は、当事者間に争いがない。

四  請求原因4の(四)の事実(入院・雑費)について

原告が、本件事故による傷害のため七七日間入院したことは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、その間入院雑費として、少なくとも一日当たり金一〇〇〇円として合計金七万七〇〇〇円を下らない支出をしたものと推認される。

五  請求原因4の(五)の事実(入通院慰藉料)について

前記の原告の傷害の部位・程度・入通院期間等諸般の事情を勘案すれば、本件事故によって原告が受けた入通院中の精神的苦痛に対する慰藉料は、金一二〇万円が相当である。

六  請求原因4の(七)の事実(逸失利益)について

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和三九年五月二二日生まれの健康な女子で、本件事故当時在日朝鮮人総連合会静岡県本部に事務員として勤務していたものであるが、本件事故後右静岡県本部を退職し、仕事に従事していなかったが、昭和六三年一月八日露店で飲食業を経営している夫と結婚し、現在夫としては一か月金五〇万円程度の収入があるため、主として主婦として家事と二児の育児に従事し、今後家計を助けるため就職する意思もないことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、原告本人尋問の結果によれば、原告としては前記の後遺障害のために恥ずかしい思いをしあるいは不便を感じることがあることが認められるが、将来の整形手術により外貌醜状がさらに改善されることが期待されるうえ、右後遺障害によって原告の専業主婦としての労働能力が現に低下しあるいは将来低下するものとは認め難いところであるから、原告の後遺障害による逸失利益の損害は、所詮これを認めることができないというほかない。

七  請求原因4の(六)の事実(後遺障害慰藉料)について

原告本人尋問の結果及び前認定の事実によれば、原告は、本件事故当時一九歳、症状固定時二三歳の未婚女性であったこと、原告の顔面に変形醜状が残ったこと、右眼瞼閉鎖不全等の障害によって右眼への異物の混入等生活上の不便を強いられていることが認められるほか、前記のように原告の逸失利益の損害を認めなかったことその他諸般の事情を総合すると、本件事故による後遺障害によって原告が受けあるいは受けるであろう精神的苦痛に対する慰藉料は、金五〇〇万円が相当である。

八  請求原因4の(八)の事実(弁護士費用)について

原告が、平成元年一二月五日、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、相当額の金員の支払を約していることは、弁論の全趣旨によって認められるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額等に鑑みると、被告に対して賠償を求めうる弁護士費用は、金四〇万円が相当である。

九  請求原因5の事実(損害の填補)について

原告が、被告から、既に金九一六万五三二二円を受領し、これを本訴において請求する損害の一部に充当したことは、原告において自認するところである。

一〇  結論

以上認定判断したところによれば、原告の本訴請求は、被告に対し、本件事故による損害金のうち金五三〇万三〇九八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一二月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎 勤)

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